「授業で編み物をするので、その準備をしています」
と聞いて、皆さんはどんなシーンを思い浮かべるでしょうか?
「今、『編み棒』作ってんねん」
ある日、学校から帰ってきた娘の報告です。
どうやら、手仕事の時間に編み物をするので
その準備をしているようです。
娘が折々に話してくれることから想像できたのは、
こんな風な教室の様子です。
1年生の3学期。ある日の手仕事の時間。
子どもたちは、紙やすりで
細長い木の棒の片端をせっせと削っています。
慎重に少しずつ具合を確かめながら削る子もいれば、
大胆に力をこめてどんどん削っていく子も。
2本の棒を同じような形に仕上げるのは、
なかなか難しい作業です。
また別の日。今日、机の上にあるのはくるみです。
布の中にいくつか入れて、上から油が出るまで充分に叩いたら、
その油で2本の棒を滑らかに磨き上げます。
少しだけ余分にもらったくるみをみんなで食べてみたりもします。
削らなかったほうの端には丸い木の玉が接着剤でつけられ、
棒編み針の完成です。
その次にするのは、編み針を入れる袋作り。
先生からそれぞれの名前が下書きされた布をもらい、
糸でまず自分の名前を縫い取っていきます。
「○○ちゃんのはな、糸と糸の間が1ミリしかないねん」
「○○くんは名前が長いから、なかなか終わらへんねん」などと、
他の子の出来具合もながめながら、袋の形に縫ったところで、
今度は口に通す紐が必要です。
好きな色の毛糸を選んで、指で鎖編みの紐を作り、
その紐を袋に通してようやく編み物の準備が整うのは、
2年生になってしばらく経ったころです。
この編み針を使って、自分用の針刺しや笛入れなどを作ります。
そして3年生になったら、今度は、
羊から刈った毛を毛糸にする過程を体験します。
(← 今は笛入れを編んでいます。
次の手仕事の時間まで
この袋に入れてしまっておきます)
ESDが目指す「今ある問題に気づき、それを変えていこうとする人」。
心に描いたことを実現させていく意志の力の根底には、
自分にもできることがあると思える、自分への信頼が必要です。
自分で道具を作り、さらに、それを使いこなして、
必要なものを自分の手で生み出すという体験を積み重ね、
「この手でできることがたくさんある」と気がつくことは、
その信頼への小さな一歩かもしれません。
n*h