教育内容
シュタイナー教育では子どもの成長段階に応じて、子どもの世界を広げながら、必要なものを育てていきます。
校舎や教室の空間は、無意識のうちに子どもたちに影響を与えていると私たちは考えています。そのため各教室も子どもの成長過程にふさわしい空間を意識して作られています。
1・2年の子どもたちは先生を前に見て授業を聴くよりも、先生の後ろ側でもいいのでそばにいて触れていたがるものです。彼らにとって世界と私はまだまだ「一体」のまま、いうなればパラダイスにいるような状態で、先生の愛情に包まれて過ごします。こうした時期の子どもたちには、円に近い形の教室がふさわしいのですが、現実的に可能な範囲で、子どもたちを包み込んでくれるような教室を目指しました。
天井は、自然素材から作られた塗料を使って『薄いピンク色』に塗っています。周辺部を低くすることで、まどろみの中にいる子どもたちを包み込み、天井(天上)を身近なものにしています。
3年の頃、子どもたちは「9歳の危機」を迎えます。これまでひとつだった世界と私が分離をはじめ、世界から独立した「私」が意識され始めます。内面形成の始まりです。これまで一体であった世界から、この時期は「先生」が権威を持った存在として意識されはじめます。前も後ろもなかった教室の天井は、この学年で初めて「前」を持ちます。
天井は、まどろみを包み込むピンク色ではなく、動きを持ち始めた『オレンジ色』に塗っています。
5年生になって間もない子どもたちには、まだまだ子どもらしい幼さが目立っていますが、この1年で彼らの体は大きく成長していきます。1年生から4年生の教室は2階にありますが、5年生になるとはじめて1階に降ります。それまでの幼児らしさから抜け出して2階で過ごす小さな子どもたちを「支える」ことができるようになっています。
この学年を覆う天井はほとんどフラットで、低学年の特徴だった「包み込む」要素は部屋の四角にわずかに添えてあるだけです。天井はこの頃のあり方を示すようにと『黄色』で塗っています。
9歳以降に始まった世界との離別は、この時期に最後の段階を迎えます。自分というものを起点として、世界の物理的な広がりへと向かう一方、自らの内部への探求の旅が始まります。自立の最後の証として、1年から続いた担任の教員に反発し、乗り越え、8年間の導きに別れを告げます。
空間も、包み込まれることを拒否し、「分断され、内部へ、外部へと流れ出す」意識に寄り添うような形状が相応しいのではないでしょうか。天井には、光の色である黄色と闇の色である青色が結合した色であり、シュタイナーが最も地上的な色と呼んだ『緑色』を塗っています。
子どもたちは世界との一体的な関係から次第に目覚めていきます。9年生からは高等部が始まり、専門性の高い教科をそれぞれの教師が教えます。生徒はこれまでより独立した個人として授業に向かうことになります。この時期の教室の形状は7・8年生の教室の特徴であった外側へと流れ出す傾向を基調としながらも、世界との新たな出会いを予感させる兆候を含めています。
天井の色彩は1年生から始まった暖色から、7・8年生の緑色を経て、今度は『青色』へと変化します。
開校して10年目の年、大きくなったこの学校のために新しい校舎が加わりました。でもそれは本校舎のように包み込むような暖かな色と木の香りに溢れた建物ではなく、見知らぬ世界の中で、たった一人で自分を探そうとしているこの時期の子どもたち自身のように、四角い壁に囲まれて少し孤独に建つ青い建物です。小さなこどもたちに囲まれることを喜びながらも自分たちだけの場所を求めて専用のティーテラスまで作った高等部が、いま自分たちだけのスペースで学び、語り、育っています。
そんなかれらを包む天井は、自立しつつ世界とのつながりを模索するような形状をもち、青色と赤色を自分たちの手で交互に塗り重ねて活き活きとした『藤色』としました。
1年生から始まった旅も、この最上級学年で終りを迎えます。大地へと降り立った魂は再び高みを目指し、別棟にある教室で2年間過ごした後、12年生で再び本校舎に戻ります。最上級学年の教室は、その旅の始まりである1年生教室の隣に位置しています。この学年の天井は、1年生の教室に似た包み込むような形状を持ちますが、それは螺旋のように一段高い次元のものとなっています。その一体感は、はじめから「与えられた」ものではなく、世界との分離を体験した上で自らの手で「獲得した」ものです。このことは、凸型と凹型が並存する形状として現れています。
この教室の色彩には光と闇が結合した『紫色』の中でもすこし赤の入った、ワインレッドに近いような『パープル』と呼ばれる本来の紫色が使われています。天井形状にはダイナミックな動きが加わり、新しい世界へ向かって、これから船出してゆく姿を示しています。