最初の一歩 ― 「測る」エポック

娘が3年生になって間もない頃のことです。
学校から帰るなり、
「母ちゃん、ちょっとじっと立っといて」。
椅子から立ちあがらせた私の足元にしゃがみ込むと、
踵から上に向かって、両手の親指を交互に重ねるように
少しずつ動かしながら「1、2、3、4・・・」と数えています。
頭のてっぺんまで数えてから、おもむろに
「うん、母ちゃんは○○寸!」。
さらに大きなテーブルなどをちまちまと測るわが子に、
「もうちょっと小さいものを測ったら?」
と喉まで出かかるのを飲み込む私。
ほほえましく始まったのは、
「はかる」とノートの表紙に書かれた、単位を学ぶエポックでした。
その後もしばらく
「この戸棚は○束(つか)!」「湯船は○尋(ひろ)!」
という日が続き、そのうち「キュービット」「スパン」なんていう
聞き慣れない単語も。
子どもに聞くと、1キュービットは手の中指の先から肘までの長さ、
1スパンは片手をいっぱいに広げ、
その親指から小指までの長さだとのことでした。

ある日はそれぞれの家から学校までは何歩あるかを数え、
別の日は、全員がひとりの子の腕の長さを基準にいろいろな物を測り、
最後は、学校から近くの神社までの距離を、
いくつかのグループに分かれて巻尺で測ったようです。
娘いわく、
「○○神社まで『やく』1キロやったで。
『やく』っていうのはな、だいたいそのくらいってこと」
ここまで学んだところで「はかる」のエポックは一旦終了し、
次のエポックへと移ったようでした。

シュタイナー学校では、
算数、国語、理科、社会といった科目について、
エポック授業という方法がとられています。
ひとつの科目だけを3週間から4週間、
前日の授業の内容を展開しながら少しずつ学びを深めていく形で
授業が進められます。

このときの「はかる」のエポックでは、
まず自分の体のいろいろな部分を使って、身近にある物の
大きさを測るところから始まりました。
その結果をお友達と比べたりするのかもしれません。
そうすると、同じものを測っても、
体の大きさや使う道具によって結果が違うことに気づきます。
それでは、誰が測っても同じ結果が出るようにするには
どうしたらいいのかと考え、
基準となる長さを決めることに思い至る・・・という、
人類がたどった過程を同じようにたどり、
ようやくメートル法で測るところまで、
たっぷりと時間をかけて学びました。

そういえば、測量機器を駆使して、
私には到底作れそうにもない立派な測量図を完成させる10年生。
あの子たちも、最初の一歩は、この「はかる」エポックだったのですね。
「君たち、よくぞそこまで成長したね~」。
これから同じ道をたどるわが子を思い、
しみじみとそう感じたエポックでした。

n*h


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