卒業プロジェクトが終わって

 京田辺シュタイナー学校では、卒業までの一年半をかけて卒業プロジェクトに取り組みます。
11年生になると卒業プロジェクトのことを考え始め、自分のテーマを発表し、担当教員が決まり、自分のテーマに向かいはじめます。

 一年半前、息子は卒業プロジェクトのテーマを『食』に決めました。漠然としているテーマでしたが、食にまつわる歴史、文化、自然科学、調理、どれも興味があり、どれか一つには絞れない。まずは様々な要素が含まれる燻製をやってみたいということでした。燻製器をつくり、食肉加工について、調理について調べ、実際に作ったものを食べてもらって、感想を聞くということを重ねました。しかし、やりたいのは燻製を極めることではないということが、進むほどにわかってきました。並行して、通常の授業やクラブ活動、卒業演劇などが忙しく、卒業プロジェクトをする時間がなくなってゆき停滞しました。

 夏休みの後半、ようやく再度卒業プロジェクトに打ち込める日々がやってきました。
青春18きっぷを使い、息子はハムが好きになったきっかけである鎌倉ハムを食べに行くことにしました。そして、この旅での経験が、息子にとっての転機となりました。
鎌倉ハムの本店の展示室を閲覧し、神保町の古本屋街をめぐり、古代ローマの食文化についての本と出合い、その後の方向性が決まったのです。

 提出レポートを書き終わったとき、
「僕の興味の集大成だ」と息子は感慨深げに言いました。
バラバラだった興味の世界が、不思議にかみ合い収束し一つにまとまった。そんな充足感に満ち溢れていました。

 さて、このように進んだ息子の卒業プロジェクトですが、実は、卒業プロジェクト総論を語るには息子の体験だけでは言葉が足りません。それは、卒業プロジェクトの持つ意味が、子どもによって違うからです。
選んだテーマに取り組むことから何を見出すのかは、子どもたち一人ひとり自分で模索してゆきます。どの親も、何になるのかわからないものを待っている、そんな日々でした。
ですが、卒業プロジェクトを終え、親たちの感想はほぼ一つに集約されています。
『卒業プロジェクトを経て子どもは変わる。卒業プロジェクトを経て初めて見える世界がある』
ということです。

 卒業のときを迎え、子どもたちは皆しっかりと大地に立っています。
シュタイナー教育が目指す『自由への教育』という言葉が、ああこのことなのかもしれないと、心に響いています。


T.S.

※本校ウェブサイト
・シュタイナー教育が目指すもの『自由への教育』 こちら
・卒業演劇・卒業プロジェクト こちら


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