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『親と先生でつくる学校』翻訳出版のお知らせ

『親と先生で作る学校』繁体版表紙

本校の書籍『親と先生で作る学校』(せせらぎ出版)が、2019年7月、台湾で翻訳出版されました。
繁体中国語版より「発行者によるはじめに(日本語訳)」をご紹介いたします。

 

はじめに

 台湾の、そして世界中の全てのシュタイナー学校の始まり方はとてもよく似ています。私たちの青禾華徳福学園(チンハー・ワルドルフ・スクール)も例外ではなく、限られた物理的条件のもとで、九つの家庭と四人の教師が、果てしない希望と信念とを共に胸に抱いて、発足させました。そしてこの新しい学校は、萌芽の可能性を内に秘めた種が皆そうであるように、人々の思いと支援とを、一身に集めてきました。

 青禾が生まれた最初の年の初春、とある日本人父兄の紹介で、日本で長年オイリュトミーを教えてこられた秦理絵子先生が、私たちの小さな教室を訪ねて来られました。そしてその日、先生は二つ返事で、青禾のオイリュトミー教師の仕事を引き受けてくださったのでした。それは、青禾と秦先生との、奇跡のような、お互いに強く結びついた協働の始まりでした。この関係は現在まで続いており、秦先生は私たちの学に対して、オイリュトミーにとどまらず、あらゆる分野において、最大限の協力を惜しむことなく与え続けてくださっています。そして、かつて東京シュタイナーシューレ(現在の学校法人シュタイナー学園)の創立教師でおられた先生は、黎明期の学校にとって最も必要なのは、こんな学校になりたいという明晰なビジョンである、ということをよく理解しておられ、私たちにこの本を翻訳出版することを勧めてくださったのです。

 昨年十二月、京田辺シュタイナー学校で父兄として長く運営に携わり、かつて代表理事も務められたことのある吉田敦彦教授が、青禾を訪ねて来られました。吉田教授は朗らかでポジティブな方で、自信に満ちておられ、それは秦先生の特質とも、またこの本の内容とも重なるように感じました。この本に書かれているのは、シュタイナー教育における学年ごとの中心的な学びというだけではありません。よりくっきりと浮かび上がってくるのは、ひとつの学校がどのように生まれ、育っていったのか、ということです。そして、この学校の中のすべての人、この学校に関わるすべての人が、人間と教育の本質について、同じ何かを信じているということが、この本から伝わってきます。この点に関しては、読者である私たちが、何度も繰り返して深く考える価値があるように思います。

 今年は、ドイツのシュトゥットガルトで最初のシュタイナー学校が生まれてちょうど百年目に当たります。この百年間のシュタイナー教育は、第二次世界大戦による教師の離散と喪失を経て再建し、今日まで、世界中で──21世紀に入ってからは、とりわけアジアで、大きく発展してきました。世界各地のシュタイナー学校は、一方で創設者であるルドルフ・シュタイナーによる人間の発展と教育への理解を引き継ぎながら、もう一方でそれぞれの土地に合った学習内容を作り上げようと努力してきました。京田辺シュタイナー学校の、京都や奈良の伝統産業やお祭りなどの活動と強く結びついた学習方法については、とても羨ましく感じます。このような学習方法は、伝統文化とその精神を大切にする日本においてしか実現し得ないのではないでしょうか? 私たち青禾も、こういった方向へと舵を進めて行くことが出来ればいいなと思います。

 最後に、この二十年余り、台湾のシュタイナー教育運動を推し進めてきた先輩達と各学校とに、感謝の気持ちを捧げたいと思います。彼らが茨の道をくぐり抜けて来なければ、私たちのような新しい学校が、これほど短時間に今のような形に発展することは出来なかったに違いありません。しかしながら、この本においても触れられているように、シュタイナー学校には、いわゆる「これで完成」という瞬間は来ることはありません。私たちは永遠に、時代の急速な移り変わりと価値観の変化に向き合っていかなくてはならないからです。 経験豊かなシュタイナー教育の専門家であった故・ローター・シュタインマン氏が、かつてこのようにおっしゃっています。「生命の不確定性を受け入れた瞬間に、あなたは真の自由を手に入れる」。これこそが、シュタイナー教育の過去であり、現在であり、未来なのではないでしょうか。

林琦珊(リン・チーシャン)
台北市青禾ワルドルフ実験教育機構


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