我が家はこの学校に入学する直前までシュタイナー教育と無縁の日々を送っていました。シュタイナー学校の存在も知ってはいましたが、何やら不思議な教育法だし、自分とは別世界のことと思っていました。
娘は小さいころ、私と離れること出来ず、幼稚園も休みがちでした。年少の途中で引越しに伴い転園しましたが、状況は変わりませんでした。
そんな時、なんとか通える距離に、少人数の家庭的な雰囲気の園があることに気が付きました。でも、困ったことにそこはシュタイナー園です。娘は、テレビも見ているし、文字も書いているけれど、我が家でも大丈夫だろうか…。恐る恐る幼稚園に電話してみると、いつもお散歩にいく公園で保育の様子を見学させてもらえることになりました。石ころやどんぐりを拾っている子ども、元気に走り回っている子ども、そして穏やかな立ち姿の先生。なんだかそこだけほっこりした空気感です。「ここなら、大丈夫かもしれない!」思い切って転園を決めました。
転園後もしばらくは登園したがらないだろうという私の予想とは裏腹に、なんと娘は翌日から普通に登園しはじめ、キツネにつままれたような思いになりました。
幼稚園の帰り道に「今日も楽しかったね。」と娘に声をかけると、「うん!だって、幼稚園では〇〇先生がママだから、全然怖くないんだよ!」との言葉が返って来ました。その時は、深く考えませんでしたが、先生から日々の保育について伺ったり、本を読んだりするにつれて、娘が感じた安心感や先生への揺るぎない信頼感の源はどうやらシュタイナー教育にあるようだと思い始めました。
そして、家でも少しずつシュタイナー教育を試してみました。気が付くと、私が家事などで傍らを離れると泣いていた娘が一人でも遊ぶようになり、日々の生活の歯車が滑らかに動くようになっていきました。「小学校もシュタイナー学校だったら、楽しく通えるかもしれない。」こうしてこの学校への入学にむけて一歩を踏み出しました。
当時は他県に住んでいたのですが、新幹線や高速バスに乗り、学校の講座や催し物に出来る限り足を運びました。そのたびに感動するものの、わが子を12年間通わせると思うと不安も浮かびます。迷いを残しながら入学説明会に出席し、保護者面談を終え、夏の終わりには入学に向けての最終段階である子ども面談の日がやって来ました。
子ども面談では、子どもたちは親と離れて1年生教室で模擬授業を受けます。はじめに、親子でホールに集い簡単な挨拶をした後、子どもたちは先生とわらべうたを歌いながら手を取り合ってホールから出ていきました。娘はもちろん、私の手をぎゅっと握りしめたまま動こうとしません。先生はそんな娘の様子を瞬時に察知し、娘が気付かないような自然な形、かつ絶妙なタイミングで様々な配慮をしてくださいました。そしていつの間にか娘は私のことなどすっかり忘れ、何事もなかったように授業を味わい、キラキラした瞳で私の元に帰ってきたのでした。
「あんな先生方なら、子どもの心の成長に寄り添ってくれるはず!」
「この学校なら心から安心して子どもを委ねられる!」
夫と二人でこの学校への入学を決意しました。
けれども、数々の不安が消えたわけではなく、未解決問題を抱えつつ入学しました。それでも、先生の話や様々な学年の保護者の経験談を聞いたりして行くうちに少しずつ不安や疑問が消えていきました。また、1年生から12年生までの子どもたちの様子に触れ「そうか、こういうことだったのか…。」と思うことも多々ありました。
実は、入学前に私が最も懸念していたのは「こんな少人数で、しかも12年間同じクラスで社会性は身に着くのだろうか。人間関係が苦しくなることはないのだろうか。」ということでした。ところが今となっては、面白いことにそのこと自体が最もわが子を育んでくれたと感じています。
引っ込み思案で甘えん坊、私と家でのんびり過ごすのが何よりも好きだった娘。それが今では宿題と格闘しつつも部活に生徒会活動にと忙しくもなんとも楽しそうな毎日を過ごしています。その上、長期休みには一人旅に行き、最近になってアルバイトもはじめ、知らない人と話すのが楽しいとか言っているではないですか。
シュタイナー学校、シュタイナー教育ってやっぱり不思議です。
≪11年生保護者≫