「歴史」現代社会をどう生きるか

「歴史」現代社会をどう生きるか

旅立ちの前の最後のメインレッスン

12年生の最後のメインレッスンは「現代社会をどう生きるか」をテーマにしました。 いよいよ旅立ちの時を迎える彼ら。 その彼らがこの学校を旅立つにあたり、最後のメッセージを一人ひとりが皆に向けて語ること、そしてその共有された時間、言葉、空気が、その後の人生でも一人ひとりの心の中あたため続けられていき、そしてその温かさが折にふれよみがえっていったらいいなあ、と思いながら授業を進めました。 メインレッスンは3週間続くのですが、その第一週は見田宗介さんの「現代社会の理論—情報化消費化社会の現在と未来」「社会学入門—人間と社会の未来」の二冊を指針としつつ、「高度資本主義社会の誕生」と「戦後の日本」を振り返りました。

社会とつながることの不安と自分への問いかけ

必要に応じて物を作り出すのではなく、美しいデザインと魅惑的なコマーシャルによって人間の欲望を刺激し、新たな需要をも生み出すことに成功した高度資本主義。その中で豊かな生活を享受している私たち。 でもその臨界点は、実はいたる所に見えてきています。そんな現代社会の中で私たちは一体どのように生きていけばいいのか。 「自分の周りには善意が満ちていて、明るいピンク色のようなイメージなのだけれど、そこから少しずつ遠ざかっていくにつれてだんだん薄暗くなって行き、世界の向こう側には暗黒が広がっているような気がする。 でもニュースで見る、そこで苦しんでいる人々と一体どのように繋がっていったらいいのかわからない」 生徒の一人から出されたこの意見に、多くの生徒が共感していました。また水俣病について話した後、ディスカッションで生徒の一人は皆にこう問いかけました。 「自分は今まで自分の好きなように生きて行ったらそれでいいと思っていた。コンピューターゲームのソフトを作って、それで皆が楽しんで、自分にもお金が入ったらそれでいいと。でも本当にそれでいいかどうかみんなの意見を聞きたい。人にとって本当にいいものって何やろ? コンピューターゲームって本当に人にとっていいものなんやろか。もしかしたら自分がやろうとしていることは、水俣病の原因を作ったチッソの社員とおんなじことなんちゃうやろか。 俺、どうせ作るんなら本当に人にとっていいものを作りたいんや。人にとって役に立つ仕事がしたいんや」 深い問いだと思いました。

本校での学びの意味を見つけ、誇りを持つ

その後1週間でミヒャエル・エンデのラストメッセージ「ハーメルンの笛吹き男」やその関係書「パン屋のお金とカジノのお金はどう違うか」を参考にしながら、お金の問題=お金とは一体何なのかを考え、そこから新しいコミュニティと地域通貨の可能性について話しました、また最後の一週間ではゆっくりと時間を取って、それぞれが関心のあるテーマについて皆で話したり、この学校での6年間の生活について振り返りました。 「この学校での生活は、ほんとうに濃い、意味のあるものだった。仲間たちも皆個性豊かで、ちょっと濃すぎる面もあったけど、そしてしょっちゅうぶつかってたけど、最後には仲良くなって本当によかったって思う」 「この学校の生徒らは皆兄弟みたいだし、学校全体が家族みたいな感じがする。みんなでみんなを見守ってるし、私らも見守ってもらったって感じがする。1年から12年までが一緒ってのもよかったと思う」 ここで体験した人と人との繋がりを、改めて思い出したり感じたりしながら、この学校で実践されていることが実は今まで提起されてきた問題群への一つの回答なのだ、と何となく皆も感じた様子でした。 最後にこの学校の設立趣意書を読みました。これはこの学校の設立時に私が書いたもので、この学校へのみんなの思いが集まったものだと思っています。そして今でもみんな同じ思いでいると思います。 子どもたちを中心にして親と教員が集う場所。今彼らはそこを旅立とうとしています。「今、この学校のことを胸を張って語れるし、この学校の卒業生であることを誇りに思う。この学校のことを皆に知ってもらいたい」生徒の一人がこのように語ってくれました。 この最後の3週間は、本当に祝福された、心がいっぱいになる日々でした。そうして彼らは最後の課題、自分たちの卒業プロジェクトの仕上げへと向かっていったのでした。

高等部出版「黎明」より引用)


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