NPO法人京田辺シュタイナー学校

教育ビジョン どのような人間に育てたいか

はじめに


 生命は、大河の流れのように、親から子へ、人から人へと受け継がれ、未来に向かって滔々と流れ続けます。今、幾すじもの小さな流れが、子どもたちに引き寄せられるようにして、ここ京田辺の地に集まりました。私たちはここで出会い、子どもたちと共に、同じ時を歩んでいます。
 私たちは子どもたちのすこやかな成長を、何よりも願います。強い意志、豊かな心、明晰な思考。子どもたちの魂の中で、それらが豊かに織りなされ、私たちの祈りにも似た思いが、その魂を温かく包むとき、子どもたちの中にはある力が生まれます。それは、人と共に生き、感じ、考え、共に夢を実現する力。そして、人とのつながりを大切にしつつも、時として、ひとり悠然と地上に立つ強さ。子どもたちが「天空へ憧れ発つ翼」と「大地に伸びゆく強い根」を持って、人と共に生きていくことを、私たちは願っています。
 この学校は、子どもを中心にして、親と教員が向い合い、語り合い、共に育くんでいく場です。同じ思いをもって集まった人が、意見のぶつかる瞬間に何度も遭遇しつつ、それでも途中で投げることなく、言葉を尽くし語り合い、感じ合い、一つに練り上げていくのです。それは、一本一本色の異なる糸を、一枚の美しい布に織り上げる過程に似て、喜びと苦しみが交錯する、大変ながらも深く、辛いながらも豊かな時間です。そうして共有された私たちの思いや行いは、地下の水脈を通して、子どもたちの心をも豊かに潤していくと、私たちは信じています。
 そしてそのようにして、滔々たる生命の流れが続いていくよう、私たちは願っています。


1.内への深まりと外への広がり


 自分の内面を深めることにより、自分の歩むべき道を選び取り、自らの人生を切り開いていく力を育てること(内への深まり)。そうした自分の価値観をしっかり持ったうえで、人や社会とつながり、調和を生み出し、未来を切り開く力を育てること(外への広がり)。
その響き合う両面を調和的に育むことにより、単に現代社会に適応した人間というのではなく、現在の有り様を尊重しながらも、自ら新しい社会を創っていく一員となれる人を育てたいと思います。

〈小中等部の授業において〉
  • 子どもの成長段階に適した(シュタイナー教育のカリキュラムにそった)授業により、体と心に栄養を与え、生きる力の源を育みます。
  • リズムをもった繰り返しにより、強い意志を育みます。
  • 芸術に満たされた授業により、生き生きとした豊かな感情を育みます。

 詩や歌で始まる授業の中で、子どもたちはイメージ豊かにお話しを聞き、味わい、絵や文で表現して自分だけの教科書を作っていきます。また、手を動かし、体を動かして、様々な感覚と体験を通して学びます。数学や理科の中では、法則を見つけだした人の発見過程や実験などを体験することを通して、自らそれらを発見していきます。中学年になると、それらが世界に与えた影響にも考えを進め、歴史や文学の中でも時代を切り開いていった人物の生き様を、内面の葛藤を追体験しながら学びます。年齢に沿って、身近な所から徐々に遠く、広く視野を広げ、世界としっかり結びつきます。

〈高等部の授業において〉
  • これまでの8年間に育んだ体・感覚や感情をベースにして、生き生きとした思考を育みます。
  • 生徒たちの活動や視野を教室・学校内から現実社会の中へと広げます。
  • 世界への信頼と自分自身への信頼を確かなものにしていきます。

 学びは、「感覚を通して知識を得る段階」「温め、関連づける段階」「要点を整理し理解する段階」「必要な反復練習の段階」「自分のことばでまとめ、文章にする段階」を経て、さらに自分にとって大切なことは何か、それを用いて何ができるかという、「自ら創造する段階」へと導かれていきます。高等部では、“創造的な課題”を意識的に与え、これまでの8年間の学びを自分で考える力へと高めていきます。
 低学年から積み上げられてきた手仕事や園芸などの実践的な活動をPKE(実践的・芸術的学び)として、人が産み、育んできた文化的活動へと展開し、実際の社会の中で行われている営みや活動している大人たちと出会います。
 これまでの学びを現代の社会、私たちの生活へとつなげていき、今起こっている事をその背景と共に知り、それに対して自分が何をできるのか考え、また仲間の意見も聞き、自分の考えをさらに深めていきます。また、仲間と共に行事を企画・運営したり、卒業演劇を作りあげるなどの活動を通して、他者とぶつかり合いながらも何かを成し遂げる体験をします。そうした体験の中で他者を信頼すること、自分の責任を果たすこと、自分自身を信頼することを学びます。


2.大地にしっかり根を下ろし、両手を天の高みへと伸ばして


 現実の社会の中に自分の足で立ち生活していく力をもつこと(大地にしっかりと根を下ろし)、その一方で、現実世界だけにとらわれるのではなく、目に見える世界の背景にある神秘や美しさを感じ、自分の生をも越えた世界や次の時代への視野を持つこと(両手を天の高みへと伸ばして)、大地と天、その両方の間にしっかりと立つ人間を育てることを目指します。
 シュタイナーは、1919年に世界で初めてのシュタイナー学校を開校する際に、この新しい学校の設立を、現代の精神生活を革新する事柄と捉え、ここでの教育が一人の人間の地上での生を越えたものであることを強調しています。それは非常に高く、遠く遥かな目標ではありますが、それでもその精神を忘れずに、一歩一歩あゆんでいきたいと思います。

〈小・中等部の授業において〉
  • 成長段階に則した授業の中で、8年間の見通しを持って基礎的な学びの力、必要な知識を養います。
  • 高等部の授業やレポート作成に対応できる基礎的な学力をつけます。
  • 知識の背後にある人間の叡智、そして、人間を超えた神秘を感じながら学ぶことを大切にします。
 
 エポックノートに書かれる文章は、写し取ることから始め、徐々に自分の力で授業の内容をまとめられるようにしていきます。そのために必要な読み・書きの力、聴く・話すなどの力を段階的につけていきます。担任は、算数など他科目においても、8年の見通しを持って、それぞれのクラスに適した形で、その成長段階に適した方法、適した量の反復練習を行い、知識の定着をはかります。同時にそれが、機械的な学習にならないよう、バランスに気を配ります。
 新しいことを学ぶ時には常にその知識の意味するものを理解し、その背景にある人間の叡智、世界の神秘に驚き、感情を通して学んでいきます。

〈高等部の授業において〉
  • 現実社会に力強く踏み出していくために必要な基礎学力や知識をしっかりと身につけていくことを大切にします。
  • 11・12年時に高卒認定試験を受験し、通常の高等学校卒業と同等の資格を持って卒業し、その後の可能性の幅を広げられるようにします。
  • 自分に(進むべき道のために)必要な勉強を自分でしていく力を育てるために、これまでに育んだ世界に対する興味・関心と意志の上に、それらを持続させる力を養っていきます。
  • 知識の背後に宇宙とのつながりや、宇宙や世界を貫く真理や法則性を感じ、学びが深まり広がることによって、世界がどれほど調和や美しさに満たされているかを実感していけることを目指します。
 
 エポックによっては毎回確認のための小テストを行うなど、必要な練習を重ねます。
 高等部ではエポック毎にレポートが課せられます。学んだ内容を基礎にして、自分で調べ、考えた事柄をまとめる練習もしていきます。レポートやプリントなど与えられた課題をやり終えるためには、時として、楽な方に流れようとする己を克服することも必要になります。それぞれの状況を踏まえた上で、不十分な課題はやり直しをさせるなど、やるべきことをやり遂げる練習も重ねます。
 高等部で学ぶ内容は専門的になっていきます。一見、日常生活とはかけ離れた内容に感じられる法則も、実は世界や宇宙のあり様を解き明かすものでもあります。自分の周りの様々な事柄を貫く法則性をひとつひとつ発見することにより、世界がどれほど神秘や美しさに満たされているかを感じ取ります。また、新しい法則によっていかに世界や宇宙が解き明かされていったかを知り、人類の歩みにも想いを馳せます。これらのことは、自分を取り巻く世界や社会に対する信頼の気持ちを育みます。

 本校の12年間は、自由な観点から世界を捉えてゆく学びのために費やされます。ここで言う「自由」とは、自分の目で世界を見つめ、自分の歩むべき道を自らの力で選び取り、実行していく「人間の自由」を意味します。そのような人間をシュタイナーは「真に自由な人間」と呼びました。シュタイナー教育が「自由への教育」と呼ばれるのはそのためです。自らの人生を自ら選び取り、困難にぶつかりながらもその道を歩むこと、そのことこそが人間にとっての「真に幸せな人生」だと考えるのです。
(「教育ビジョン」から抜粋)
2005年11月5日 京田辺シュタイナー学校教師会

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